エピジェネティクスとは、その細胞種が必要な遺伝子のみを発現させるゲノム上に刷り込まれた遺伝子選別システムである。このシステムの先天的な異常が種々の発達障害疾患の原因となっていることが知られるようになってきた。さらに、近年、脳においては、エピジェネティクスの状態が、胎生期の低栄養・新生時期の精神ストレス・てんかん薬や精神疾患薬といった環境要因で比較的短期間に変化する可能性が示されてきた。
エピジェネティクスは、ゲノム上での調節因子の着脱を基盤とする可逆性を有するシステムである。したがってジェネティクス変化(遺伝子変異)よりも原理的には修正が容易であり、それゆえ、発達障害の原因として後天性のエピジェネティクス変化が明らかになれば、新しい治療を想定できることになる。本講演では、このような背景のもと、(1)エピジェネティクスの基本概念、(2)先天性のエピジェネティクス発達障害疾患、(3)環境によるエピジェネティクス変化、(4)エピジェネティクス異常の是正(治療)の可能性、について、われわれのデータと予測を交えながら紹介する。
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