発達障害研究所
Institute for Developmental Research
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2009年度 発達障害研究所 共同セミナー


日時 平成22年3月12日(金) 16:00~17:30

場所

発達障害研究所 1階共同セミナー室

演題

後脳背側から生まれる神経細胞の個性獲得の分子機構
- 小脳無形成突然変異マウス「セレベレス」の発見から展開してきた研究 -

講師 星野 幹雄
国立精神・神経センター 神経研究所 診断研究部 部長
早稲田大学 先進理工学研究科 電気・情報生命専攻 客員教授
東京医科歯科大学 生命情報科学教育部 連携教授
講演要旨

 

我々ヒトを含むほ乳類の中枢神経系には数百〜数千種類もの神経細胞が存在するが、これら多種多様な神経細胞がそれぞれ固有の機能を発揮することによって、複雑かつ高度な脳機能が可能となる。かように、「いかにして多種多様な神経細胞が生み分けられるのか」は神経科学における重要な問題である。近年になって、マウスをはじめとするモデル動物での遺伝学的解析手法が目覚ましく発展し、特定の神経細胞が神経上皮のどの領域からいつ生み出されるのか、そしてそこにはどのような遺伝子・分子が関与しているのか、などが明らかにされつつある。我々は、小脳、橋、延髄を生み出す後脳領域(hindbrain)をモデルシステムとして、この研究課題に取り組んでいる。

 我々は、小脳皮質の全ての領域を欠失し、運動失調症状を示す、新たな突然変異マウスcerebelless を発見し、その原因遺伝子Ptf1aを同定・解析した。そして、bHLH型転写因子であるPtf1aが小脳脳室帯の神経上皮細胞で発現し、小脳の全ての種類の抑制性神経細胞の発生を司っていることを明らかにした。その後別のグループから、もう一種類のbHLH型転写因子Atho1が小脳菱脳唇で発現し興奮性の神経細胞の誕生に関与していることが報告されたため、私は、小脳の神経上皮では異なる二種類のbHLH型転写因子の発現によって規定された神経上皮が、異なる種類の神経細胞(抑制性と興奮性)を生み出している、というシンプルなモデルを提唱した。さらなる我々の研究から、このモデルには、吻側延髄(蝸牛神経核神経細胞を生み出す)や尾側延髄(前小脳システム神経細胞を生み出す)など、他の後脳領域にも適用できる普遍性があることが明らかになってきた。本セミナーでは、マウスの遺伝学を用いた我々および他のグループの研究を紹介しながら、「神経細胞がその多様性を獲得するための分子戦略」について、考察したい。


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