前  周生期学部 研究テーマ(その7) 次


脳の発達におけるプロテオグリカンの役割

  • 時田義人(愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所、周生期学部)

 コンドロイチン硫酸プロテオグリカン (CSPG) は骨や軟骨の成分としてよく知られていますが、脳にも多くの種類のCSPGが存在します。これらは、成長因子などと結合し、それらの働きを調節していると考えられています。しかし、個々の種類のCSPGがどのような役割分担をしているのかについては、まだよく分かっていません。そこで私たちは、発達期の脳で特定の種類のCSPGに結合する分子を調べることにより、その役割分担の一端を明らかにしようと考えました。
 まず、成熟ラットの脳からニューログリカンCと呼ばれる細胞膜に存在するCSPGと結合する分子の候補を調べたところ、その中に細胞の増殖やシナプスの形成を誘導する活性を持つ生理活性分子や、プロテオグリカンを切断する酵素が含まれていました。ニューログリカンCはドーパミンという脳内分子の作用に影響する薬物で増えることや、ニューログリカンCの遺伝子の変異と統合失調症という疾患に関連がある可能性が報告されています。また、ニューログリカンCは細胞の外部に出ている部分が切断されることもわかっています。ニューログリカンCは、神経細胞のつなぎ目のシナプスと呼ばれる場所に存在していますので、これらのことを総合すると神経の機能に関わりがある可能性が考えられます。また、今後、ニューログリカンCなどのCSPGとその周りの分子の相互作用を調べることにより、CSPGが脳の発達過程でどのような役割を果たしているのかが分かり、障害を持つ神経の機能を修復する方法を考えることができると期待されます。

関連論文
  1. Shuo T. et al. (2007) Ectodomain shedding of neuroglycan C, a brain-specific chondroitin sulfate proteoglycan, by TIMP-2- and TIMP-3-sensitive proteolysis.
    J Neurochem. 102:1561-1568.