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脳室周囲白質軟化症モデルラットの作製と治療戦略の開発

  • 島田 厚良、河内 全、稲村 直子、榎戸 靖、細川 昌則

 脳室周囲白質軟化症(PVL)は早期産児で発症する白質病変であり、2つの病因、すなわち未熟脳における低酸素/虚血と子宮内細菌感染が未熟オリゴデンドロサイトを傷害すると考えられている。PVLの詳細なメカニズムや発症後の効果的な治療戦略は現在でも不明であり、わが国をはじめ、多くの国において極低出生体重児(体重1500g未満)の増加傾向に伴って、PVLの発症が増加している。そのため、周産期および小児医療の中でPVLは最重要項目の一つとなっている。臨床の現場においてはPVLの2大病因の合併は頻繁に生じるにもかかわらず、実験的研究では、2大病因を組み合わせてPVLを再現したモデル動物はほとんど無かった。本研究はラットを用いた低酸素/虚血と細菌感染の組み合わせによる、よりヒトPVLに近似したモデル動物を作製すること、およびこのモデルを用いた新規PVL治療戦略を開発することを目的とした。
 細菌感染に対応するLPSモデルは妊娠母ラットにLPSを腹腔内投与し、低酸素/虚血に対応するH/Iモデルは仔ラットの総頸動脈を結紮した後に低酸素処理して作製した。本研究ではLPSモデル、H/Iモデルと2大病因の合併に対応するLPS+H/Iモデルを比較検討した。各モデル病態を形態学的、免疫組織化学的に評価したところ、LPSモデル、H/Iモデルでは明瞭な病理学的変化を示さなかったが、LPS+H/Iモデルは約50%の個体で結紮側の白質および大脳皮質の一部で梗塞巣を示した。この梗塞巣ではミクログリア(マクロファージ)や肥大化アストロサイトが多く存在した。よってLPS+H/Iモデルは急性期PVLのモデルになり得ると判断した。現在はLPS+H/Iモデルにおける各グリア細胞の機能的意義を解析するとともに、薬物投与などによるPVLの新たな治療戦略の検討している。