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慢性的神経変性とミクログリアの機能異常

  • 石井さなえ、武井史郎、島田厚良、細川 昌則

 ミクログリアは脳内免疫担当細胞であり、常に突起を活発に動かしながら脳内の異常の有無を探知している(図1)。ミクログリアが正常に機能しないと脳内の異常が発見・修復されず、それが蓄積する結果、神経変性に至るのではないかと考えられる。そこで、我々は慢性的神経変性モデルであるSAMP10マウス(老化促進モデルマウス)を用い、ミクログリアの形態と機能について調べ、神経変性を起こさないSAMR1マウスのそれと比較した。ミクログリアの形態は、免疫染色にてミクログリアを同定した後、カメラルチダを用いて描画し、画像解析ソフトにて解析した。ミクログリアの機能は、興奮毒性により海馬を損傷させ、それに対するミクログリアの応答を形態変化や分子発現などから解析した。その結果、SAMP10マウスとSAMR1マウスのミクログリアでは、形態の加齢変化の仕方が大きく違うことが明らかになった。また、海馬損傷後のミクログリアには、細胞死を起こしたニューロンを貪食して組織を掃除するマクロファージ状のミクログリアと、生存ニューロンに対して保護的機能を有する反応性のミクログリアがあることが知られているが、SAMP10マウスにおいては、後者のタイプのミクログリアに異常が見られることを明らかにした。今後は、慢性的神経変性モデルのSAMP10マウスにはミクログリアの形態的、機能的異常が見られるということを切り口として、慢性的神経変性発症のメカニズムの解明にむけて更に研究を進める予定である。

本研究は国際学術誌に論文発表した(Hasegawa-Ishii, S., et al. Neuropathology 31:20-8, 2011、Hasegawa-Ishii, S., et al. Brain Behav. Immun. 25:83-100, 2011.)。筆頭著者の石井さなえ研究員は、平成24年度日本神経病理学会賞を受賞した。

(図1)
     正常時におけるミクログリア