オリゴデンドロサイトの分化異常と関連した稀少難治性白質疾患の病態解析
跳躍伝導を可能とする神経軸索のミエリン(髄鞘)化は、高次脳機能の発現と維持にとって必須の生命現象であり、それらの破綻が精神・神経疾患を引き起こす原因となることが知られています。特に、中枢神経系のミエリン化をつかさどるオリゴデンドロサイトは、神経幹細胞からその前駆細胞が生み出された後、前ミエリン形成オリゴデンドロサイト(premyelinating oligodendrocyte)の段階を経て、成熟したオリゴデンドロサイトへと分化し、ミエリンを形成します。これら一連の過程は、内因性や外因性の様々な分化制御因子によって厳密にプログラムされており、それらの破綻が遺伝性白質疾患や脱髄疾患を引き起こす主な原因と考えられています。
私たちは、発達期のミエリン形成異常を症状とする稀少難治性小児疾患に注目し、これまで「生体高分子の分解・再生の場」とされてきたライソゾーム注1)が、オリゴデンドロサイトの分化やミエリン形成にとって重要な役割を果たしていることを明らかにするとともに、それらの制御に関わる細胞内シグナル伝達経路や分化制御因子を同定しました(論文投稿中)。
本研究は、これまで殆ど知られていなかった稀少難治性白質疾患の発症メカニズムの解明とその治療法の開発につながる、学術的にも臨床医学的にも重要な成果をもたらすことが期待されます。
注1) ライソゾーム:真核生物がもつ細胞小器官の一つ。リソソームとも呼ばれる。細胞内外から取り込んだ脂質や糖質、タンパク質などを分解し、再利用するために働く。オートファジー(autophagy; 自食作用)の制御にも重要な役割を演じていることが知られる。
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