染色体の構造異常や構築・分離の異常が見られる脳発達障害の病態解明 |
福士大輔、鈴木香、若松延昭
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染色体には、複製されたゲノム情報を娘細胞やその子孫に正確に均等に分配する重要な機能があり、染色体の構造異常(欠失、逆位、重複など)、異数性、分裂や凝縮の異常などは知的障害(intellectual disability)の主な病因である。本研究では、重度知的障害の染色体の構造や機能異常を明らかにし、病因解明を行う。
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1. |
Fukushi D, Yamada K, et al. Clinical Characterization and Identification
of Duplication Breakpoints in a Japanese Family with Xq28 Duplication Syndrome
Including MECP2. Am J Med Genet A: 164(4):924-933,2014 |
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Xq28重複症候群は通常男児に見られる疾患であり、MECP2遺伝子を含むXq28の微細重複が病因である。症例は、出生時にfloppy infantが見られる。軽度の特徴的顔貌があり、発達遅滞が見られる。治療抵抗性のてんかんと反復性感染が出現し、退行が見られる疾患である。重複の分子機構として、FoSTeSなどが報告されている。 |
2. |
Fukushi D, Mizuno S, et al. Aneuploidy and intellectual disability. in Aneuploidy in Health and Disease, Storchova Z ed, InTech-Open Access Publisher (Rijeka, Croatia), pp 107-122, 2012. |
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染色体のAneuploidy(異数性)は、チェックポイントに関与するタンパク質の機能異常などにより細胞分裂中期の姉妹染色分体の均等な配分が起こらない場合に出現する。解析した5例の原発性小頭症の異数性を解析し、小頭症の病因が多様であることを報告した。 |
3. |
Mizuno S, Fukushi D, et al. Clinical and genomic characterization of siblings with a distal duplication of chromosome 9q (9q34.1-qter).
Am J Med Genet A 155A:2274-2280, 2010. |
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染色体第9番の長腕の末端部に微細重複が見られる症例の臨床的解析により、本症例には症候群としての特徴的所見が見られた。 |
4. |
Yamada K, Fukushi D, et al. Characterization of a de novo balanced t(4;20)(q33;q12) translocation in a patient with mental retardation.
Am J Med Genet A 152A:3057-3067, 2010. |
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染色体4q33と20q12に相互転座が見られる知的障害の転座断点部位を同定し、CHD6遺伝子が病因と考えられた。 |
5. |
Kondo Y, Mizuno S, et al. Two cases of partial trisomy 21 (pter-q22.1) without the major features of Down syndrome. Am J Med Genet A 140:227-32, 2006. |
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ダウン症候群の症状が見られない21部分トリソミーの2症例では、過剰な21番染色体の長腕の末端領域が3番染色体短腕(3p)と、14番染色体長腕(14q)の末端領域とそれぞれ入れ代わっていた。本研究では2症例の過剰な21番染色体の断点部位を同定し、さらに報告されている21部分トリソミーと3p、14qの末端トリソミー症例との症状を比較検討し、2症例の病因について考察した。2症例の21部分トリソミーには、中等度MR、発達の遅れ、低身長が共通には認められたが、ダウン症候群に特徴的な顔貌は認めなかった。FISH解析の結果、過剰な21番染色体にはダウン症候群の発症に関与すると考えられている長腕の末端領域(DSCR)が欠損しており、代わりに3p26.1-ter(末端), 14q32.1-terが挿入されていた。3pと14qの末端領域が2症例の特異顔貌に関与していると考えられ、いずれも最も短い3p、14qの部分トリソミーであった。さらに、DSCRを含まない21部分トリソミー(21pter-q22.1)が、知的障害、低身長、小頭症、足趾の異常に関与すると考えられた。 |